桜蕊降る(さくらしべふる)
あれほど長持ちしていたソメイヨシノの花ですが、昨日の大雨により、しんがり組の小集団もあらかた叩き落とされてしまいました。
そればかりではなく、花後に残った赤い蕊もパラパラパラと地上に降り注いだのでした。
雨が掃き寄せてグループを形成しているところも。
それにしても、ソメイヨシノの木からは、なぜかくもたくさんの蕊が降ってくるのでしょうか?
それは、ソメイヨシノのある特徴に由来します。
本当にごく僅かではありますが、ソメイヨシノの花粉であっても受粉が成立し結実することはあります。でも、その種が芽を出すことはないのです。もしも芽を出したとしたら、それは他の桜との雑種。
江戸の末期、染井村で作出されたソメイヨシノは、このような性質を持っていたために実生での品種固定が実現できませんでした。そこで、増やすための苗木は、最初に誕生したソメイヨシノからの接ぎ木で作るしかなかったのです。
つまり、今、全国中に生育しているソメイヨシノは、次々と接ぎ木で増やされたクローンなのです。
そのようなわけで、他のソメイヨシノの木の花粉であっても、「他家」の花粉ではなく「自家」の花粉ということになります。ですから、他家受粉ではなく自家受粉に該当するのです。他の植物でも、多様性を確保できないので、自家受粉は避けられる傾向があります。ソメイヨシノの場合、その性質が顕著なので、結実に至る花はどうしても少なくなります。
ですから、受粉できなかった大量の蕊が結実することなく降り落ちてしまうのです。