オペラシティへ 新進気鋭のマエストロ
初台の東京オペラシティに行ってきました。
いつも楽しみにしている東京フィルハーモニー交響楽団の「休日の午後のコンサート」。
今回のプログラムは、「オーケストラクライマックス」。「クライマックス」とあるとおり、今回選ばれた6つの楽曲はすべて、コンサートの幕開けやエンディングを飾るようなエキサイティングなものばかり。
聴く側にしてみれば、名曲のおいしいところが次々と運ばれてくる贅沢なコース料理のようなものですから、お年玉をもらったような気分です。
一方、演奏する側にとっては、なにせクライマックス部分ばかりなのですから、息もつけません。楽団のすべてのメンバーが大変、指揮者も重労働です。
その重労働を担当したのが、23歳のマエストロ、太田弦さん。まだ、芸大大学院の学生でありながら、風格にあふれた指揮ぶりでした。
きびきびとした動きはエネルギッシュで、「若い力」がみなぎっていました。力強さばかりではありません。体全体、特に手の先、指の先までの動きが、軽快かつしなやかなのです。聴衆も、ついついひきこまれ、のりのりになっていきます。私の周りでも、首でリズムをとったり、前のめりになって聞き惚れたりする方が、あちらにも、こちらにも。
「休日の午後のコンサート」の特色の一つが、演奏の合間に、指揮者が曲の誕生秘話や聴きどころなどを紹介するコーナーのあること。
司会者から、「年上ぞろいのオーケストラのメンバーに指示を出すのは気苦労な面もあると思いますが、指示を出す上で心がけていることは何ですか。」と問われた太田さんは、
「手の動きだけで指揮者の意図が伝わることがベストでしょうが、やはり短い言葉も必要です。その際は、伝わりやすい言葉をかけるようにしています。例えば、『もっと小さな音で』というのではなく、『50メートル先から、あるいは、100メートル先から聞こえるように』とか。」
といった趣旨の話をとつとつとされるのです。
「若き天才」の中には、「えへへ、僕って天才だもんね~。」といった態度あからさまな方もおられ、それはそれで、やはり天才だからこそだと思いますが、太田さんは、はにかむように話されるのです。初々しい限りです。演奏中は大天才、普段は「とってもいい人」、そんなイメージの名マエストロになってもらいたい、そう思いました。
東京フィルを指揮するのは初めてとのことでしたが、演奏中は実に堂々たるもの。ところが、入場、退場の時は、体に針金を撒きつけたようにぎこちない動きなのが微笑を誘います。
よりによって、司会者が、
「若い人はさっさと歩きますが、太田さんはゆるゆると歩かれる。それが指揮者の風格につながるんですね。」
などというものですから、その後の入退場時には、太田さん、ますます緊張され、意識されたため、体の針金が5倍ほど太くなったように、幼稚園児のあどけない行進姿のようになってしまいました。
それがまたよかったなぁ。
私たち夫婦にとってフル充電となった一日でした。