高校時代のこと その3 大陸は動くのか、動かないのか
陸が動く?・・・そんなバカな
地理の授業中に、担当の先生から、
「昔、ウェーゲナーという人が、『大陸移動説』というものを唱えたことがある。アフリカ大陸の地図と南アメリカ大陸の地図を切り抜き、それを合わせるとぴったり重なるよね。そこで、ウェーゲナーは、『大陸は長い年月をかけて移動している』と主張したわけだ。ロマンあふれる仮説だけれど、今は否定されているんだよ。」
と、面白い逸話風に、刺身のつまのような扱いで話されたことがあります。
生徒たちも、一人残らず笑い転げ、
「ウェーゲナーってばっかだなぁ。」
「大陸がのこのこ動くわけないじゃないか。」
「形がぴったり合うのは、たまたまだよ、たまたま。」
と、かわいそうなウェーゲナーさんを、心の中でけなしつけていたのでした。
こやんぴ青年の疑問と進路
私は、小学生の頃から地図を見るのが大好きでした。副教材の地図帳で、日本、そして世界各地の地図を、本がぼろぼろになるまで眺め暮らしたものです。
地図帳を開くたびに不思議でならなかったのは、
1 太平洋を囲むように火山が列を成していること
2 日本やフィリピンの東側に1万メートル前後の海溝があること
3 ハワイ諸島から西側に海山列が連なっていること
小学校でも、中学校でも、そして高等学校でも、こやんぴ少年~青年は先生に質問し続けたのですが、はかばかしい答えは返ってきませんでした。謎のまま。
当時は、海の底だった所が何千メートルにも達する山岳に成長するメカニズムも、すっきりと説明できていなかったのではないでしょうか? 少なくとも教科書レベルでは。
こやんぴが「できる奴」だったら、これだけの疑問を持っていたのですから、
「よぉし、俺が研究して解明してやる。」
とファイトを燃やし猛勉強を重ね、将来有望な学究の徒となったに違いありません。
そして、文読む月日を重ねた後、めでたく地震学者か火山学者になり、テレビの解説者として登場するようにもなったことでしょう。
司会者から、
「大先生! 噴火はいつ起きるんでしょうか?」
「先生! 地震は予知できるものでしょうか?」
と聞かれた際には、
「火山活動は、あと二分か(ふんか)、あるいは五分か(ふんか)といった短いスパンで語れるものじゃありませんよ。前の噴火から新しい噴火まで三千年かかったと言ったところで、地球の長い歴史からみれば『あっ』という間。発走を待つ競走馬が興奮して「ふんかふんか」鼻を鳴らす一瞬のようなもの。なので、すぐに起きると言っても数日後かもしれないし、もしかしたら数百年後、数千年後かもしれません。まだ、よちよち歩きなんですよ、噴火予知は。」
と親父ギャクを連発して苦笑を招くか、ついつい調子に乗りすぎてしまって、
「地震予知? いやあ、そんなこと聞かれても答える自信(じしん)は有馬温泉。」
などと答え、あまりのくだらなさにブログが炎上していたのではないでしょうか。
ウェーゲナーさん、申し訳ない
我がクラスが「大陸不動説」に凝り固まっていたこの時期、実は、大陸が動いていることを立証する研究が着々と進んでいたのです。げらげら笑っている場合ではなかったのです。
そうです、プレートテクトニクス理論。
私が高校を卒業して少し経った頃には、雑誌「ニュートン」により、この理論が詳しい図解付きで紹介されるようになっていました。この理論によれば、私が子供の頃から不思議に思っていたことのすべてが、すとんと腑に落ちてしまうのですから、もうびっくり仰天です。
ウェーゲナーさんの大陸移動説は、大陸が動くそもそもの理由をうまく説明できなかったため、多くの人の認めるところとならなかっただけだったのです。
彼の慧眼には頭を垂れるべきだったと思います。特に、笑い転げた我がクラス全員は、今からでも、
「ごめんなさい、ウェーゲナーさん。」
と謝らなければなりません。