穭田(ひつじだ)や溝なる蕎麦に数珠の珠
穭田(ひつじだ)や
私が生まれて育ち、今も住んでいるのは、川越市郊外の水田地帯。
今、田んぼでは、このような光景が広がっています。
穭田(ひつじだ)と言います。
稲を刈り取った後、その切り株一面に、青々とした稲がふたたび生え出た田んぼのことです。
当地では、近年、田植えは梅雨入り前、稲刈りが9月が当たり前となっていますので、まだ霜が降りる前に、稲が第二の芽をここまで伸ばすことができるようになりました。
でも、私の若い頃は、田植えは6月、稲刈りとは10月と相場が決まっていました。このため、切り株に新しい芽が出てきた頃は、もう冬。芽はひとたまりもなく霜にやられて枯れてしまいました。そのようなわけで、このような田んぼを目にすることなどありえなかったのです。
学生の頃、稲刈りの早い北陸地方を旅したときに、車窓に広がる穭田を初めて目にし、
「あれぇ、切り株に、また米がなっている。すごいなぁ。」
と、びっくり仰天したのは、そんな事情があったからなのです。その頃は、まさか我が故郷でも、同じような光景が見られるようになるとは思ってもいませんでした。
こんな背の低い段階で、花をつけ、米にまで成長します。ただ、少ししか稔りませんし、味も良くないので、ほったらかしとなっています。
与謝蕪村は、次のような句を詠んでいます。
ひつぢ田の案山子もあちらこちらむき
溝なる蕎麦に
ミゾソバの花は、もう少し早い時期にカメラに収めようと思っていたのですが、天候が悪かったことと、病院での検査結果が良くなかったことから、盛りを過ぎてからの撮影となってしまいました。
赤い花をつける株と、白い花をつける株が混在している水路がありました。
花の一部は、すでに実をつけ始めているので、あまりきれいな姿ではありませんが、「花が終わるとこうなっていくのか。」
ということが分かる写真となりました。
草紅葉になりかけの葉も、なかなかきれいです。
数珠の珠
ミゾソバの密集する水路の下流側に、ジュズダマの群落もありました。
ジュズダマの実は、子どもの頃の遊び道具。随分身近な存在でした。
健康茶の一つにハトムギ茶がありますが、そのパッケージに書かれた絵がジュズダマにそっくりだったので、若い頃は、
「どういうこと? ジュズダマっていうのはここらの方言で、本当はハトムギなの?」
そう思っていました。
ハトムギがジュズダマの栽培種であることを知ったのは、ずっと後のことです。
ちょうど、花をつける時期だったんですね。
イネ科らしい質素な花。