年齢の数え方
日本は、その昔、全員がお正月を迎えることによって歳をとっていました。
ある意味では、分かりやすいことこの上なしですよね。
一休宗純禅師が、
「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」
と詠んでいますが、「1月1日に日本人全員が歳をとる」、という考え方が共有されていたからこそ、
「さすがは、一休さん、うまいこと言うなぁ。」
と多くの人が思えたのですね。
しかし、現在は、満年齢が行き渡っており、数えで自分の歳を言う人は、ほとんどいない世の中となりました。
満年齢に慣れた現代人には、一休さんの仰る意味が、いまいち理解しにくくなっています。
現代では、誕生日が来ると、一つ歳をとる・・・
ところが、そうではないんです。
4月1日生まれの子が、早生まれに当たり、3月31日以前に生まれた子と一緒の学年になるので、ご存じの方も多いと思いますが、
「誕生日の前の日に一つ歳をとる」
のが正解。
なんじゃそれ。そう思いますが、「年齢のとなえ方に関する法律」と民法の規定によって、そうなってしまう。
例をあげて説明します。
ある金曜日、こやんぴが、改札のない無人駅から乗車して、会社の最寄駅で降りようとしたら、定期券も財布も小銭入れも持っていなかったことに気がついたとします。
さあ、どうしましょう。
こやんぴ、改札の内側で、職場の同僚がやって来るのをひたすら待っています。きょろきょろ、きょろきょろ。挙動不審です。
あ、来ました、来ました、同僚A。
「Aちゃん、ごめん。かくかくしかじかなので、千円貸して! 土、日があるので、3日後に返すから。」
こやんぴ、Aさんから、めでたく千円を借りて、乗り越し窓口で運賃を払い、無事会社に着きましたとさ。
(ばかに生々しいのは、これがフィクションではなく、事実に基づいているから。しかも何回も経験しているとは情けなや。)
ここからは完全なフィクション。
金曜日の3日後はいつでしょうか?
そうですよね、月曜日。借りた当日は計算に入れず、次の土曜日を1日目、日曜日を2日目と数えていくので、3日目は月曜日です。
それでは、こやんぴ、3日後の何時までにAさんに千円を返したらよいでしょうか?
朝一番に返す? 普通そうですよね。
でも、こやんぴ、3日後としか言っておりません。
この場合、返済期限は、あくまでも民法上ですが、月曜日の午後12時ということになります。
Aさん、勤務時間が終わるというのに、こやんぴが千円を持って現れません。
「こやんぴったら、忘れているのかなぁ。」
Aさん、帰宅して、夕食を食べ、お風呂に入り、テレビを見て、午後11時に床に入りました。まどろんだと思ったら、チャイムが鳴るではありませんか。
「誰だよ、こんな時間に!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、玄関を開けるAさん。
「やあ、Aさん、この間はありがとう。3日後の約束だから、千円返しに来たよ。」
こんなことをしたら、あっという間に友達を失いますが、民法上は、一応理屈に合っております。
民法では当日を計算に入れないわけですが、年齢については、先ほどの法律によって、誕生日当日も計算に入れるのです。
赤ちゃんが、おんぎゃあと生れた民法上の3日後は、年齢のとなえ方に関する法律によれば生後4日目ということになります。
で、この法律によると、誕生日も1日と数えるものですから、1年目に当たるのは誕生日の前日。
そして、民法の規定により、日によって計算する場合、1年目に当たる日の午後12時に1年が経過することになってしまうんですね。
「え~っ、午後12時って、次の日の午前0時じゃないの? 同じじゃん!」
とはいうものの、あくまでも誕生日を計算に入れるために、次の年齢に達するのは、誕生日の1日前なのです。
わかりにく~い。
ところが、おもしろいことに、というべきか、おかしいというべきか、すべての法律が、この年齢の数え方を踏襲しているかというと、そうではないんですね。選挙権は、誕生日の前日には発生せず、誕生日が基本。
悪名高き後期高齢者医療の対象も、誕生日が基本。老齢年金の受給開始などは、原則どおり「年齢のとなえ方に関する法律」に則っているというのに、同じ高齢者の法律が違う扱いをしているわけで、分かりにくさに拍車がかかります。