「こやんぴ」のぶらりお散歩ブログ

お散歩大好きの「こやんぴ」が、ふと出会った植物や動物たちについて思いつくままに記していきます。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』その1 物語の進行と星座の関係

賢治は百科全書派

 

 宮澤賢治は、様々な学問分野の知識を持っているので、作品の謎を解明するためには、研究者の方でも幅広い学問知識が必要となります。しかしながら、研究分野の細分化が進んでいる現在、これは「言うは易く行うは難し」です。

 

 このため、研究者の大半は、自分の得意分野に特化して賢治文学を扱うことが多く、時々、独りよがりでとんでもない「怪説」が登場します。それが一見面白いので話題になり、地道な研究の足を引っ張ることも。

 

 私の恩師は、賢治の自筆原稿、つまり一次資料に徹底的にこだわると共に、賢治の記した宗教、鉱物、植物、天文、気象、火山などの真相に迫るため、これらについても深く研究されています。

 

賢治と樺太

 

 賢治は、妹さんが亡くなった直後、ある思いを持って、開通したばかりの樺太航路を利用し樺太に渡っています。このことが、未完の名作『銀河鉄道の夜』の内容に深みを与えることとなるのです。

 

 そこで、先生は何回かサハリンに赴き、実地に賢治の足跡を辿っているのです。

 一番最近の先生のサハリン行には、3人の専門家の他、なぜか私も同行したのですが、当然のことのように、私は何の役にもたっておりません。それでも、お誘いいただいたお陰で得難い経験をすることができました。

 この経緯については、少し暇ができたら、当時の写真付きでご報告したいと思います。

 

天の川の記述が幻想的

 

 宮沢賢治の未完の童話『銀河鉄道の夜』の冒頭「一、午后の授業」は、そのものズバリ銀河がテーマになっています。その後の物語の展開に直結する表現が、童話の中の先生のお話として語られていきます。
 「ですからもしもこの天の川がわがほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利の粒にもあたるわけです。」

 

 その後、ジョバンニとカンパネルラは銀河鉄道の旅に出るのですが、白鳥の停車場で20分停車するのを利用し、プリシオン海岸へと二人は向かいます。

 

 「七、北十字とプリオシン海岸」の詩のように美しい場面・・・

「そして間もなく、あの汽車から見えたきれいな河原に来ました。
 カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ、掌にひろげ、指できしきしさせながら、夢のように云っているのでした。
『この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている。』
『そうだ。』どこでぼくは、そんなこと習ったろうと思いながら、ジョバンニもぼんやり答えていました。

 河原の礫は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃの皺曲をあらわしたのや、また稜から霧のような青白い光を出す鋼玉やらでした。」

 

 みごとに冒頭の場面と繋がっていますね。

 

物語と「南中」の深い関係 

 

 白鳥のステーションに銀河鉄道が到着するのは午後11時です。なぜ11時なのでしょうか?

 実は、賢治が勤務先の学校の夏休みを利用し樺太に出掛けた際、彼の乗った東北本線の下り夜行列車が盛岡駅に到着する時間も、ずばり午後11時ちょうどなのです。みごとに重なっているのですね。20分停車することも合致しています。

 

 さらに言えば、夏空で白鳥座はくちょう座)が天頂に達する時刻とも一致しています。ちょうどその頃に、童話では「白鳥の停車場」に着いているという訳です。

 白鳥座北十字と呼ばれているので、北の方角に見えると思いがちですが、真夏の夜11時頃には、北の空というよりも、我々の頭上高く、天頂近くに輝いているのです。

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 星や星座が空の一番高い所に達することを「南中」と言います。面白いことに、銀河鉄道の旅のポイント、ポイントで、星座の南中が起こっています。一番驚くのは、午前3時に「サザンクロス」の停車場に到着するまさにその時刻、南の夏空で南十字星みなみじゅうじ座)が南中するのです。

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 これは決して偶然ではなく、賢治が星座早見盤を手にしながら、「この謎が解けるかな?」と読者に問いかけているに違いない、私の先生は、そう考えていらっしゃるのです。